#80


<赤蜻蛉>






テーマ : ショートショート - ジャンル : 小説・文学

#79



乳房が張って痛いと貴女が言う。
時計が毎晩、零時をまわる頃
あ、きた、まただ。
あついあつい、いたいよ

そう言ってベッドで身もだえて、寝間着の胸をはだけて
悩まし気に眉をよせる。

その苦し気な眉に口づけ一つ落として
少し我慢してねと言いおき、キッチンに向かう
冷凍庫から氷をコップに山ほど入れて
水道水を満たし、寝室に戻る。

貴女は熱くはった乳房をむき出しにして
あつい、くるしいよとつぶやきながら身体をくねらせる。
コップの氷水を口に含んで、口の中をゆっくりひやし
あついと悶える貴女を押さえつけて、固く張り
痛々しいほどに尖っている乳首をそっと口に含む。

あ・・・あ・・・冷たい
あ・・・きもちいい

背中そらせて、満足そうに吐息が漏れるその唇も
冷たい水で湿らせて、固く張りつめる熱い両の乳房を
強く、ぐっぐっと揉みしだきながら、氷水で冷やした唇と舌で
乳首を転がし冷やし続ける。

あぅ・・・ふぁっ・・・あ・・・
つめた・・・い・・・あっ・・・

白い喉がひくひくと喘ぐ。
くねくねとのたうつ貴女の白い身体を押さえつけ
抱きしめ、執拗に冷えた舌を乳房に這わせ
揉みしだく。

あ・・・あ・・・・もうだめ・・・あ・・・

か細く訴える貴女の乳房が、冷えた水と唾液で濡れて光る頃
痙攣するように震える両足を押し広げれば
乳房の熱は溶けて流れて、熱い欲望になって花開いている。

熱は冷やすのではなく
熱をもって溶かすのだ。










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#78



目が覚めて、リビングに出て行くと
夫はすでに起き出していて、つまらなそうに深夜番組を眺めていた。

もう、起きていたのと声をかけると、うんと微かにうなづいて
すっと手を伸ばして、私を引き寄せると、其の膝の上に
座らせた。

そのまま、しばらく黙って二人、くだらないバラエティ番組を眺める。
寝室で置いてきぼりにされてしまった猫が不服そうに鳴きながら出て来たので
私は、夫の膝からおりて、その不満そうな耳の後ろを少し掻いてやる。

キッチンで薄い珈琲を入れて夫に渡すと、ありがとうと受け取り
煙草に火をつける。

ーー雷、こっちにきた?

さっき、ベランダで見た不気味に光る北の空を思い出して
そう夫に尋ねると、いいや、満月が綺麗だよと静かに答えた。

煙草を一本吸い終えてから、夫は立ち上がる。
洗いざらしの清潔なシャツに綿のパンツ。
質素で清潔で目立たない服装。

いつもの出勤の格好に着替えて、ではそろそろ行くよと私の頬をなでる。
使いこんですっかりくたびれた鞄を持ち、玄関で靴を履くのを黙って見守る。

忘れ物ない?との問いに、ポケットを探り、鞄の中を確かめ
大丈夫、無いよと笑って、私に軽いキスをするとじゃあ行ってきますと手をふる。

それに笑顔で手を振り返して、重いドアが閉まると、私はカチンと鍵を閉める。
私が、扉の鍵を閉めるその音をしっかり確かめてから、夫は歩き出す。
私は扉に耳をあてて、夫が歩き出すその靴音を確かめてから玄関の灯を消す。


夫の仕事には勤務時間が無い。
無いといったら語弊があるかも知れない
勤務時間が決まっていない。

こうして、深夜に出掛ける事もあれば、ごく普通に朝出掛ける時もある。
帰って来たかと思えば、携帯が鳴って再び呼び出されて出掛ける事もある。
スーツは着ない。ごくたまに着る事もあるけれど普段はほとんど着ない。

清潔で質素なシャツと綿のパンツ
ありふれて目立たない格好で、静かに出掛ける。

帰ってくれば、玄関先に迎える私を強く抱きしめて
ただいまと二度、三度とキスを落とす。

出掛ける時の夫は、石鹸の清潔な匂いがしている。
返って来た時にはその清潔な匂いは消えていて

水の匂いがしていたり、乾いた草の匂いがしていたり
機械の油の匂いが冷たく匂っていたり、薬品の匂いだったり
ほこりくさい紙の匂いがしていたりする。

私は、そんな夫の匂いを腕の中で嗅いで
おかえりなさいと小さくつぶやく。


そんな仕事の夫だから、普段は夫婦でゆったり旅行とか
じっくりデートとかそんな事は滅多に出来ない

時々、夫から連絡が入って、仕事が終わった後に待ち合わせをして
河沿いの遊歩道をぶらぶらあるいたりとか、少しだけクラスが上の食料品店で
贅沢に買い物してみたりとかする。

一緒になってもう随分と年月が立つけれど
饒舌な会話は二人とも苦手なので、二言三言言葉をかわしながら
手をつないで、ぶらぶらと歩く。

そんな事で結構満足してしまう。

そんな毎日。


私は実は、夫の仕事の内容は全く知らないのだが
周りの人達には結構よく知られた仕事であるらしい
夫の話をするといつも、ああと言う顔をされ
ご主人大変だよねと通り一遍のセリフを言われ
で、この間のねと話題をそらされる。

皆、夫の仕事に後ろ暗く感謝をしながら
普段はできるだけ目をつぶっていたいモノらしい。

時々、親しい人間に遠慮がちに、ご主人が“あの”仕事に就いていて
心配じゃないの?と聞かれる。

心配・・・していないわけじゃないけど
離れているときに心配していても、仕方の無い事だし
あまり、と答えると貴女は強いのねぇと溜息まじりに返される。

強いのとは全く違うような。

私はただ、いってらっしゃいと見送って
扉の鍵を私が閉めるのを確認してから、歩き出す夫の足音を聞き
ただいまといって抱きしめられるときに、夫の身体から匂う匂いを嗅ぎ
時々は二人言葉少なに手をつないで歩く

そんな毎日であればそれでいい。

そういえば以前に一度だけ、夫が深い瞳で
こんな暮らしで寂しくないか?と尋ねて来た事がある。

ふいをつかれて、私はほんの一呼吸の間、どう返事をして良いか解らなかった。
夫がそんな私を見つめて、黙って私の頬を撫でるその掌に、
顔をこすりつけ、寂しく何か無いと、子供のような口調で返事をすると、
何故かじわっと涙が出て来てしまい、慌てたものだ。

それ以来夫が尋ねる事もないし、私が言う事もない。

私はただ、出掛ける夫の足音を聞き、
仕事の匂いを染み込ませて帰ってくる夫に抱きしめられる
そんな毎日が続けばソレで良い。

質素で目立たない毎日
その繰り返しがただ愛おしいだけだから。







さっき、夫の足音が、玄関のエントランスから去って行った。
今日は早く帰るよ。そう言った夫の静かな声を耳の中で繰り返し
クッキーとミルクを頬張って、今少しだけ起きていようと思う。

別に寂しい訳じゃない
ただ夫の起きている時間をほんの少しだけ一緒に過ごしたいだけだ。
別々だけど、同じ月が見下ろしている下で。
































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#77

蝉が鳴いている
夏なんだからあたりまえだなと
惚けた頭で考える。

身体中ぬるく汗をかいて気持ちが悪い。
隣をみると、うつぶせて眠っている男も背中が汗で滑っている
開け放した窓からは、涼しい風が入ってくるが

なんともあ自分たちは、汗にまみれて体液にまみれて
蝉の声をききながら、朝から絡み合っている。

ふらつくからだで起き上がり、リビングのテーブルに
お湯を注いだまま注がずに放置していたポットから
温い紅茶をグラスに注いだ。

一気に紅茶を飲んで一息ついて
シャワーを浴びたいとバスルームに向かおうとする身体が抱きとめられる
もうやだぁ・・・甘ったるくそうつぶやいて、ヌルついてる身体を利用して
鰻よろしく抱きとめた腕から逃げようとするけれど
どうにもやはり力が強くて、太腿まで伝う汁やらまだ固く張る乳房やら
ねっとり愛撫されて、声だってかれているのに甘く息がもれて

汗でもう肌がひりひりしてるの
ぎしぎしベッドが軋んで、そんな言葉は軋む音と蝉の声にかき消された。

思う様からだを嬲られて突き上げられて
奥の熱をかき乱されて、何度も上り詰めて
何を言ってるかも解らなくなって

ただ蝉が賑やかで
窓から入る風はつめたい
気温だけは高くて

そして絡み合っている二人はもう溶けている
朝からずっと

ぬめる身体で求め合って
なんかもう人間じゃないみたいだ



蝉はきっと夜更けてもなきやまないだろう



二人が溶けて、跡形も無くなるまで。







#76



夜中目が覚めて、手を伸ばすと
いつもなら其処に触れる柔らかな感触は無くて

ああ、まただバカタレが

そんな腹立たしさとも違う、なんというか闘志というのか
そんな感情が、腹の底からズガーっと一気に頭までかけ昇り
ばっちりと目が覚めて飛び起きる。

寝室からでて、リビングにその姿を探すけれど
居ない。

あんのアホたれっっ!!

くわーっと激しい感情が身体中を支配して
鍵を掴むと、サンダルをひっかけ、よれよれの部屋着のまま
外に飛び出す。

連日の熱帯夜が治まって、涼しい夜。
のんきな虫の声がうらやましいのかうらめしいのか

べたべたサンダルで走れば、それでも汗は吹き出して来て
それもなんだか、腹が立つ
(なんだ、腹立ってんじゃん、俺。)

そんな事を認識しながら、暗闇に浮き上がる
二十四時間営業のコンビニ

勢い良く入れば、よれよれの汗まみれの男に
一瞬ビビったアルバイトの兄ちゃん
荒い息整えて、何喰わぬフリして店内ぐるり一周

・・・・此処にも居ない。

まぁったくっっ!!!!!
なんなんだよホントにっっ!!

ぎりぎりっと歯を食いしばり、その反対に泣きたくなる
でも、男はこんな事で泣いてる場合じゃない、恥ずかしいバカバカしい。

スーハーと深呼吸、気持ち落ち着けて
もう一度家捜ししてやる。

涼しい夜風を額に受けて、さらに冷静になって
家に向かって歩き出す。



ミーコに悪いクセがあると気がついたのは
一緒に暮らし始めてからだ。

彼女は、夜中だろうが何だろうが
何の予告も無くふらりと散歩に出たりする

それがどうも本人に自覚が無い事が多々あって
渋るミーコを、医者につれていったのだが
そうやって悩んでいる人達には申し訳ないくらいに
何故か異常はみつからず、クセなのかなんなのか
どうにもこうにも、俺が何度注意しても駄目で

まぁ、毎晩ってわけじゃなく
ひと月に二三度あるかないかで、
特にここ数年は、まったくそんな事が無くなっていて

俺がすっかり安心していたから、いけなかったのかも知れない。

落ち着けば、やはり泣きたい気分になる。
そんな気分を振り払いたくて
まったくなぁいい加減にしろよとブツブツ独り言つぶやき

家の鍵を開けて、中に入る。
しんとした家の中で、一人取り残された気分は大きくなり
落ち着け、俺。もう一度寝室から確認と言い聞かせて
部屋に向かう。

・・・むかう

・・・・向かった。


「なんじゃ?これ?」

思わず、そんな事をつぶやいた。


ミーコは、其処に居た。
いつもの位置、俺が右手を伸ばすと触れるいつもの位置ではなく
ちょうど俺の背中側に小さく丸くなって寝息を立てていた。

その熟睡ぶりから、俺が大慌てで一人がさがさしている間中も
そこでずっと眠っていた事はあきらかで、つまりはなんというか
俺の勘違いで、つーか良く確認しろよ俺って話で。

はぁあああ〜〜〜〜〜〜

安堵の溜息ついて、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。
ミーコは実に無邪気な寝顔で其処に居る。

ほんとバカタレだ。

誰がバカタレなのかって、
そりゃ俺で、そりゃミーコで
もう何でもどうでもいいや。

ミーコを力一杯抱きしめて、髪の毛ぐしゃぐしゃにして
安眠妨害してやろうと思ったけどやめた。

ミーコの丸い頬にキスひとつ落として
背中から彼女を抱きしめるようにして横になった。

ふにゃふにゃと何事かつぶやきながら、ミーコは無意識に
俺の胸あたりに、ごしごしと頭をすりつけてから
再び寝息をたてる。


まぁったくバカタレ。
ほんとバカタレ

まぁいいさ、バカタレ


・・・・お休み、バカタレ。


明日にはまた笑顔に逢える
それだけでいいんじゃんな、俺。

深い睡魔に引き込まれながら、そんな事を思って
にやついた。

やっぱり一番のバカタレは俺に決定だ(笑)












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