#54

いつも、美味しそうだね。

本を読む私の腹部を
手のひらで優しく撫でながら
男は言った。

美味しそうって何が?

本から目を離さず、静かに尋ねると
私のシャツを捲りあげて、
剥き出しの素肌に手を這わせながら

アンタはいつも美味しそうだ、と言った。

ふふふと低く笑って、
私もうこんなにオバサンだけど、と言うと

美味しそうなものは美味しそうに見えるんだから、
仕方ないと男も微笑んだ。

今日は後ろから腰を掴んで激しく泣かせたい気分。

本を読む私の耳たぶを噛み、首筋に舌を這わせて、
男は少し熱のこもった声で呟く。

もう…

それでも、ちょっと身体をひねって背中を向けると
シャツを再びめくられて、剥き出しの背中を柔らかく噛まれる。

うん…もう…

本にまで、焼き餅焼かなくても
良いのになぁ。

そう思って、本を閉じて、寝返り打つと
男の首筋にしがみついて
素敵に髭の生えた顎を、軽く噛んだ


「どうぞ召し上がれ。」






美味な時間の後は、
本の内容も忘れてしまっているだろう(笑)






テーマ : ショートショート - ジャンル : 小説・文学

#53

冬の明けない国でした。
真っ白い雪の中、人々は暮らしました。
私も其処に住んでいました。
彼もそこに住んでいました。

真っ白な冷たい世界には、人を喰らう巨人が跋扈し、
時々人間を狩る為に姿を現しました。
その度に人々は逃げ惑い、白い雪の中に怯えて姿を隠しました。

私も怯えて逃げました。
彼もそうだったと思います。

つかの間、弱い太陽が顔を出す日中に
人々は集い、木の実を集め、家畜を養い
交流を行いました。

私もそうしました。
彼も其処にいました。


私は、彼が好きでした。
私より、はるかに若い彼が、恋しくて仕方ありませんでした。

でも、こんなヨコシマな想いは、恥ずかしくて誰にも言えないと怯えていました。

真っ白く冷たい世界の貧しい日々の中で、私はずっと彼をみていました。
この世界で人間は何時、巨人の餌になるかも知れず
何時、お互いが居なくなるかもわからず、
私は目の前のそんな恐怖におののきながら
ただひたすら、彼だけを見ていました。

再び弱く暖かな太陽が出て、小さな広場で人々が集い
つかの間笑い合っているとき、広場の片隅の倒木に腰掛けていた私の傍に
彼が静かにやって来て、となりに座ると、其の手に握っていた木の実をつまみ
私の口に入れて私に食べさせました。

木の実の香ばしいかけらを噛み砕き、どぎまぎとする私の手を
彼はしっかり握りました。

木の実を噛み砕きながら、私は彼の横顔を眺め
握られた掌をながめ、胸の奥の甘く痛いものが身体の表面に染み出てくるのを
止める事が出来ませんでした。

彼は、そんな私を抱き寄せて、自分の胸の中にしっかりと入れました。
私は、もうどうしようもなく嬉しくて、震える腕で彼にしっかりしがみつき
其の首筋に顔をうずめて、泣きそうな幸福感に酔いながら、彼の匂いを嗅ぎました。

彼は澄んだ水の匂いがする。

そして私は、実はこれが夢だと解っていて
醒めるな
醒めるな
口の中の木の実を噛み砕きながら
呪文のようにそう呟いていました。

ずっと、彼に抱きしめられながら。




テーマ : ショート・ストーリー - ジャンル : 小説・文学

#52

夫が、熱心に身繕いをしている。

あなた何処に行くんですか
一体どこに行くんですか

そう言いたいのを、ぐっと堪えて
いつものスーツケースに
出張の為のものを、手際よく詰め込む。

いつもより数倍機嫌良く、輝くばかりの笑顔で
すまないなぁいつも、と上機嫌に背中越し
労りの言葉をかけてくる。

すまないというのは誰に言ってるのですか
其の言葉は、私の心にちっとも染み通っていかないのです。

其のとき、鍵や煙草と一緒にリビングのテーブルに並べていた
夫の携帯が、甘ったるいメロディを奏でる。

目を輝かせて携帯をとって、熱心に届いたメールの内容を読んで
時間だ、そろそろ行くよと明るい声で上着を羽織る。

とても、楽しそうね。
そんなに出張が楽しいの?

黙ってスーツケースを差し出し、
玄関先で私が磨いた革靴を履く夫を
ぼんやりと眺めていた。

じゃあ三日後ね、帰りは多分遅くなるから
寝てて構わないよ。

私を気遣うふりの言葉で、自分の都合を並べ立てていた
夫の頭から、にょっきりと真っ白で長い耳が生えた。

それじゃあと、いそいそと玄関のドアを開ける
夫のお尻に、ふわっと丸い尻尾が生えた。

扉をあけると、そこは荒れ狂う暗い海で、
大きくて恐ろし気な怪魚が、
その水面を埋め尽くしている。

あなた、そんなところに行くのですか
あなた、そこは恐ろしくないのですか

玄関に立ち尽くして、言葉も無く震える私の前で
こともなげに、行ってくるよと明るく言い放った兎は
じつに軽やかに、恐れる気配等微塵も見せず
暗い海を埋め尽くす怪魚の滑る鱗が覆う背中を
軽々と飛んで、小さくなる。

兎を呼び戻そうとしても、兎の大きな耳には何も聞こえない。
ぴょんぴょんと兎は見る間に遠ざかり、怪魚の背中の上
遠い波間に消えた。

玄関先でしゃがみ込み、私は泣いた。
吐くように泣いた。

居なくなった
居なくなってしまった

私が、愛した人は、

卑怯で卑猥な兎になってしまった

恐ろしい怪魚に怯えもせず、其の背中をとんで 
怪魚に食われ、その胃袋の中で、甘い胃酸のニオイに酔いしれ

腐り果てて死ぬ事にも気づかず
怪魚の胃袋の中浮かぶんだろう。

玄関にうずくまり、額を地面にこすりつけて
わあわあと泣きながら、返してくださいと小さくつぶやいた。

私が愛したあの人を、お願いだから返してと
うずくまり泣きじゃくる私を怪魚は嘲笑う。

もう帰らないさ
もどらないさ

アレはもう兎になってしまった。
皮をはいで、人戻ったとて
兎になる前の人には戻れない。

兎の毛が
兎の血が
こびりついてその臭気が
お前の鼻を脅かすだろう。

かえることは二度と無いのだ。

それでも取り返したいなら、自分たちの背中をゆけと
怪魚は言った。
ただし、矮小な兎でない人間のお前が、
自分等の背中を飛び暗い海を行くのは、
想像を絶する辛さとなる。

逆に、くだらない兎等諦めて
その扉を閉める事もできる。

お前の好きにするが良い。

不気味な口を広げてそう告げた怪魚は、暗い波間に消えた。

うずくまり、泣き続けながら
私は考えていた。

どうしたらいい?
どうすればいい?

兎を追いかけたい?
夫を連れ戻したい?
あの人を取り戻したい?

私は、しゃくりあげながら、
涙と洟水で汚れた顔をあげた。

目の前は暗い海。
怪魚の滑る鱗が翻る。

扉を閉めるのはきっと簡単だ。
でもそうしたら私は、
この扉の先に歩いて行く事ができなくなるだろう。

そんなのは嫌だ。
そうしたらきっと、この暗い海は永遠に無くならない。

それに、兎は・・・
いいえ、夫は、

この扉の鍵を持っていった。
私が居る、この家の鍵を。

幼い子供がするように、腕でぐいっと顔を拭った。
急いでリビングに取って返して、自分の鍵をつかむと
再び玄関に向かった。

何でもない事だ
とるに足らない日常の習慣だ

それも解ってる。

でも、夫は鍵を持ってる。
この家の鍵を持ってる。

玄関を開けると、暗い海が広がっていた。
怖くて、再び涙が出て来たのを慌てて手で拭った。

唇を噛み締めて、おぞましい海に一歩踏み出す。

掌の鍵をしっかり握りしめて
夫も持っているはずの鍵だけを頼りに。













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シャンプーの時間です。

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シャンプーですか?
シャンプーは使ってません。

肌が弱いので、いろーんな薬剤はいったケミカルなシャンプーは
頭皮がぴりぴりして駄目なのです。

使っているのは、固形石鹸。

「なるせのせおと」と言う石鹸と、
時々贅沢をして、オリーブオイルと月桂樹オイルがたっぷり入った
「ダフネ石鹸」とか「カザブ石鹸」なるもので洗髪。

そのあとは、クエン酸リンスですすぐと、さらさらになります。
美容院で髪をカットしてもらうときに、シャンプーをしてもらうけれど
ケミカルシャンプーは染みて本当に困ります。

だけど、まさか「マイ石鹸」持ってく訳にいかないし、ね(笑)

石鹸

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雨あがり月曜日

思うまま、あるがまま文字を書き綴るのは、なかなかどうして難しい。

読む人間が多くなればなるほど、
自分が書く言葉の真意は、
時に歪められて受け止められる。

そうして歪められたモノに、
皆で拍手喝采されても書き手の意図と全く違う歪んだ言葉は、
勝手に一人歩きを始め偶像になる。

偶像に寄り集まって賞賛されても
戸惑うばかり、困るばかりだ。

表面を見て喜ぶ前に、その水面下をじっと目を凝らし
見つめなければ、真意なんか鱗煌めかせ水底にもぐり、
永遠に捕まらないのだ。

偶像に祭り上げられて、この世界の君主であるがごとく、
勘違いする事も、またあるけれど。

自分がどれほどのモノか、身の丈意識しておかなくちゃ駄目だ。

そもそもさ、私が僕が言いたかった事だ、
ナイスだってヒラヒラ寄ってくる前に
自分の言葉で書いてみれば良い。

よくよく自分の思いを書き出して、
何度となく読み返す事からはじめなくちゃ。

それがどんなに不器用な言葉であっても。
自分の思いを読み直してから、
そこから、他の書き手のモノをじっくり読んでみれば良い。

#51



緑色の事を、どうして“青”だと表現するのかな。
茹で立ての枝豆を、ちゅるっと頬張りながら考えた。

枝豆とビールと言うものは、どうしてこうも素敵な組み合わせで
こんな風なツーカーなコンビは、そうそう有るもんじゃない。

膝の上の猫、点けてるTVのくだらない番組。
そんな中のさらにくだらない会話。

外は、雨がざんざか降っていて
暗いかわの水は川岸まで溢れていて
夜中だと言うのに鷺が鳴き騒いで

でも、この部屋の中は暖かく穏やかだ
枝豆の青にふった、塩の白。
さやから、つるっと出て来る艶やかな青。

夏に至る。

その暑さは年々鬱陶しくなるばかりだけど。








泣きべそ天気

梅雨にふさわしい天気がつづく。
部屋の中はじとじとじめじめだ。

今日の三時のおやつには、バニラ風味のホットケーキ。
なかなかに美味しい。ちょっとクセになりそうだ。

最近痛感しているのは、“真意の読み取り”w

もちろん自分もそうだけど、書き込まれた言葉の裏まで
良く読み透かせなければ、相手が困る事もあるわけで
言いにくい言葉を、オブラートに包み、其処此処をさらに言葉で包み隠し

そうして書いたものを、そのまんま受け取って
そうだそうだと頷いてみちゃったりして。

そうやって、勝手に自分の想いの丈を
書いた作者に滔々と語ってみちゃったりして

そんなの書いた本人が困るよ。
本人の意図するところは其処ではないのに。
勝手に、わかるわかるの大合唱。

あげく、書いた人まで聖人君子に祭り上げられたら
たまらないよね。

そんなさ、自分の想いなんつーものは、
自分のログで書きゃ良いのに。
わざわざ勘違いな事を書き残して

それじゃ、書きたい事も書けなくなる

まったくどいつもこいつも。
よくよくよぉーーーーーーく
文章は読んで欲しい。

そんな事を腹立たしく思っていると
お腹が減ってしまうのだった。

所詮私の怒りなんぞこんなもんか。







さてなぁ


ちょっとここのところ、色々考えとります。
こうして綴る事の難しさ
伝える事の難しさ。

文字を綴る事で意思の疎通ができなくなる
文字を綴る事で、某か驕り高ぶってしまう。

そんな事ども。


あまりしゃべらん方がいいんだろうな。
いい気になってしゃべればしゃべるほど

どうも人を怒らせたり
不愉快な想いにさせるようだ。

貝のように口をつぐんでいればいいのか。

自分の矮小さにほとほと嫌になる。
自分というものは、幼い頃のそのまんまで
成長はしていないのだなと、思い知る。


卑怯者で居る事
嘘つきで居る事
いい加減で居る事
怠け者である事。


つくづくと嫌になるな。


それでも、こうして書きたいと思うのは
ただの奢り高ぶり知ったかぶりであることだろう。


書く事、思う事色々。

少しテーマの方向性を変えて書きたいなと
思い始めております。


そんな六月半ば。

雨ざあざあ。

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