#56


本日は忙しい。
社員食堂で慌ただしく昼食をとる。

私の向かいに席をとった女性は
ラーメンの丼を置いて何処かに行ってしまった。

私は、定食の揚げ豆腐を食べながら
湯気の立っている丼を眺めていた。

ラーメンの麺が伸びちゃうのにな

そんな事を思いながら定食の味噌汁を飲み
白飯を頬張り、再び向かいの食べる主のいなくなった
ラーメン丼を眺めた。

すると湯気の立ち上る丼から
小さな生き物が、ひょっと飛び出した。

ひょっひょっと生き物は次から次へ飛び出して来て
ラーメンの丼をぐるりと取り囲んだ。

よくよく目を凝らして見るとその小さな生き物には
ちょこんと耳がはえ、尻尾が生えていて
どうもタヌキのように見える。

小さなタヌキはぐるっと丼を取り囲み

えいとこしょ
どっこいしょ
ラーメンめんめん

伸びるなよいしょ

やっとこしょ
どっこいしょ
ラーメンめんめん

さめるなよいしょ

手振り足あげ、尻尾振り
小さな声をそろえて
可愛らしくも滑稽なウタと踊りを繰り返す

えいとこしょ
どっこいしょ

小さなタヌキ達は、ぐるぐるとラーメン丼の周りを
そうやってしばらく歌い踊りながら回っていたが
やがて、ひょーいひょーいとテーブルを飛び降りて
何処かへ消えた。

最後の一匹がテーブルを飛び降りようとして
私と目が合った。

タヌキと目が合うなんて思っていなかった私と
まさか見ている人間なんて居ないだろうと思っていたタヌキと

しばらく無言で見つめ合い固まった。

先に我にかえったのはタヌキで、
姿勢をただして、私に深々ぺこりと頭を下げて言った。


ーーああ、どぉもぉ
ーーすみませんでございますぅ
ーーおぶぅを先につかわしていただきましたぁ
ーーお先に失礼いたしますぅ


ちまちまとそんな事を言って、ぺこぺことしながら
タヌキは、テーブルをひょーいと飛び降りて何処かへ消えた。

未だ茫然としている私の前を通って、
何処かへ行っていた女性が戻ってきて席に座ると
何事もなかったかのようにラーメンを食べ始めた。

それは、タヌキがお風呂にしていたラーメンなんだけど。

女性に言おうか言うまいか迷ったけど、
彼女は美味しそうにラーメンを啜っていたので

何も知らなければ別に
何も問題ないよねと思い直し

私も再び、揚げ出し豆腐を頬張った。
うーん、ちょっと味付けが塩辛いかも
ほんの少しだけだけど。

そんな事を考え考え







(笑)

テーマ : ショートショート - ジャンル : 小説・文学

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