#70



子供の頃、良く石蹴り遊びしたよね


友人とお茶を飲んでいるとき、そんな話になった。
懐かしいねぇ、なんて暫しその話題で盛り上がる。

ええと、ほらさ、円を描いてさ。十字形だっけ?
十字とはちょっと違ったけど、似たような形だよね?
石投げてさ、ケンケンぱってさ、飛んだよね。
ああ、飛んだとんだ(笑)

石蹴り飛びのルールなんて、もうほとんど覚えていない
でも幼い時は、あきもせず皆で熱心に遊んだものだ。

ねぇ、あれってさ一種の“まじない”だよね。

ふぃに、友人が真面目な顔でそんな事をつぶやいて、
え、何、“まじない”ってと思わず聞き返すと、
やだなぁ、忘れてる?と苦笑いされた。

アレはさ、“まじない”だよ。
なんの?

結界?・・・かなぁ
けっか・・・?

だってさぁ、子供の頃は夜が長くて怖くなかった?
怖かったけど、怖くなかった時もあった。
怖くなかった時は、“まじない”が上手くいった時だよ。

友人は、あっさりとそう言って、ぱりんと煎餅を齧った。
私は、ほうじ茶を一口飲んで、石蹴り飛びは、そんな儀式だったのかと
幼い頃の記憶をほじくり返してみるが、どうにもハッキリした事は
記憶には無く、ただ、夜は長くて暗くて怖くて嫌だった時と
その暗さがドキドキして楽しかった時があったのは確かだった。

子供の頃はさ、無防備だから
自分を守るのには力なさ過ぎだから
それだから私達は、ああした“おまじない”をしてさ
夜に備えなきゃいけなかったんだよ。

それは、宵闇に隠れて子供を狙う
そうしたモノ共から身を守るため
そうとは言われずに、子供の間で受け継がれて来た呪術

夕暮れ時、必ず誰かが言い出して、
そうして誰かが地面に円陣を幾つも描き連ね
小石を投げ、慎重に円陣を飛ぶのは楽しかった。

だってさ、怖がってやったら、それは力が無くなるし
真面目にやっても、意味が無いから。

あれは、そう言うもんだったじゃない。
友人は二枚目の煎餅を齧りながら、そう言って笑った。

そうだったっけ
そうだったんだよ

ねぇ、もし“まじない”しなかったら、どうなってたんだろ?
ほうじ茶のおかわりを、友人の湯のみについでやりながら
私は尋ねた。

熱いほうじ茶の入った湯のみを、両手にくるんで
“まじない”しなかったら、食べられてた、
友人はあっさりそう言った。

・・・食べられちゃうんだ・・・

何に?とは、恐ろしくなって聞けなかった。
蒼くなって、黙り込んだ私を見て、友人は、
やだなぁ、アンタ本当に忘れちゃってるんだねぇ
でも、それって良い事だよと笑った。

食べられても、別に命を落とすって事じゃないよ。
食べられちゃうのは、心だから。

心、かぁ・・・


それは、身体を喰われてしまうよりも怖い。
心の無い身体で生きるのは、どんな事なんだろう。
想像しても、想像できなかった。

まぁねぇ。
子供のする“まじない”だからさ、
身を守るためのモノなんだけど
どうしても上手く行かない時はあるから、ね。

ほら、同じクラスだった○○ちゃんとかさ
人かわっちゃったじゃん。
あの子食べられちゃったクチだからさ

目だけが笑わずに、唇をつり上げて笑っていた
○○ちゃんの顔が浮かんだ。
その笑顔はとても怖いものだった。


運が良かったんだね、私達は。
そう言って、私も煎餅を一枚パリンと齧った。

“まじない”していて、運がいいってのも
何だかなぁだけどね。

苦笑いした友人は、ねぇ、甘い物も食べたくない?と言ったので
ケーキでも食べに行く?と聞くと、
食べに行きましょうよと真面目に答えた後、彼女は笑った。


私達は運が良い。














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#69

一ヶ月のうちに何日か、頭痛に悩まされる期間がある。
月のリズムであるのかなぁなどと、諦め半分
頭痛薬片手にじっと耐えるのだが、歳のせいなのかどうなのか
どうにもその痛みが、此処数ヶ月、酷くなっているような気がする。

頭痛が始まる時は、あ、もうすぐ来るなという前兆があるから解る。
だから、早めに薬を飲んで、じっと横になるのだが
なんだかその予兆が最近は無くなって来て、いきなり凶暴な痛みに
襲いかかられる事が多い。

ズキズキ脈打つような痛みは吐き気と目眩を伴い
意識を朦朧とさせる。

氷枕に顔をうずめて、薬が効くのをじっと待ちながら、
そう言えば、昔話だかなんだかに、こめかみが傷むので
ずっと其処を揉んでいたら、其処からニョロリと蛇が出て来て
驚いて、その蛇を追い払ったら、ソレは、空へと登って行って
こめかみの痛みは嘘のように無くなった、と言う話があったなぁ、
そんな事を思い出し、傷む場所を掌でマッサージしながら、自分の身体から
蛇が出てくるのはちょっと嫌だなと考える。

いや、蛇はさほど嫌いではないが、
やはり自分の身体から、ソレがニョロリと出てくる感覚は
ちょっとごめん被りたい。

ズキズキ傷む頭を掌で揉みほぐしながら、じゃあ何が出てくればいいかなと
くだらない事をずっと考える。

(くだらない事でも考えていないと、痛みの酷さに吐きそうになる。)

木の実とか、綺麗な石とか、そんなモノがコロコロ転がり出て来たら
良いかも知れない。
それは、蛇がニョロっと出てくるよりかは、ましな感触だろうし。

どうせなら、赤い色をした木の実なんかが良いんだけど。

ズキズキと頭は傷む。
喉が乾く
目がくらむ

早く薬よ効いてくれ

汗ばむ掌、指の間から、しゅるっと何かが這い出した。
それは、私のこめかみから、しゅるしゅると伸びて
空気を入れ替える為に開け放してある窓の柵に絡み付いた。

頭の中からずるずると某かが這い出る感覚。
ぞわぞわと背中が粟立ち、その引き摺られるような感覚に
吐き気がこみ上げる。

どうにも出来ず、丘に上がった魚よろしく
口だけぱくぱくしながら、ずるずると頭から這い出て
しなやかに窓の柵に絡み付き、葉を茂らせてゆくソレを眺めていた

まるで緑のカーテンのように、豊かに葉を茂らせ
見る間に大きな蕾をつけ、私の頭のなかから、最後のモノが
ずるんと抜け出るのと同時に、大きな蕾はするっと花開いた。

今まででも見た事の無い、見事な大輪の朝顔。
血の色のような赤い朝顔。

昇り始めた太陽のヒカリに照らされて
赤い花は揺れて、しゃりんと音をたてた。


ふと、我に返れば、頭痛は嘘のように引いていて
薬が効いたのか、朝顔が咲いたからなのか

何だか自分の身に起こった事なのに
信じる事がどうしてもできずに、

赤い大輪の花が、しゃりんと風に揺れるのを
ただボンヤリと眺めていた。












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